SaaS製品の提供価値は売上拡大と原価削減のどちらに軸足を置くべきか

toB向けのSaaS製品には業務効率化など原価削減に効くものと売上拡大に効くもの、またその両方を満たすものがある。

製品のプロポジションとしていずれかに軸足を置きながらも、最終的に両方を満たすプロダクトが市場でのシェアを築いているように見える。その中でも確固たるシェアを築いている製品は便益の重心を売上拡大に置いている印象である。

名刺管理アプリSansanでは、名刺管理する日常業務の効率化という視点からは原価の改善にあたる便益が見えるが、営業過程で生まれた無形資産の組織的活用という視点では売上拡大に資する便益が見える。

現場的な興味を惹きやすいのは業務効率化(原価削減)であるが、経営判断を得やすいのは売上拡大に効く製品と考えている。

売上拡大の便益が経営判断において優先される傾向は、新規製品は新興企業からの興味を得やすく(トラディショナルな企業に比べると導入ハードルが低いため)、新興企業が追いかける指標は売上高の場合が多いことためだろう。

業務効率化など原価削減のアプローチはあくまで売上拡大の手段として置かれるべきであり、この主従関係が逆転すると決裁を得づらい製品になる恐れがある。

新しいtoB向けの製品を市場に投入する際は、売上拡大に資する便益を提供できるかをよく吟味した上で、原価削減の切り口をマーケティング的に取り入れるのが良いのではなかろうか。

経営者視点を持つ社員

トーキョーハーバー氏は経営者の仕事を「現場に起こさない変化を起こすこと」と整理している。
経営者の仕事|トーキョーハーバー|note

本稿では「経営者視点を持つ社員」について考える。結論を先に述べると、経営者視点は持つでは不十分であり、影響力と実行力もあわせて身につける必要がある。

現場で優秀とされる社員は、現場の決裁権のない対象(例えば一定以上の経営資源や抜本的な価格政策など)と、決裁権のある対象を切り分けて考える。そして前者を定数、後者を変数と捉えた上で、評価指標に最も大きな影響を与える変数にリソースをあてられる人物だろう。

一方で経営視点をもつ社員は、現場の決裁権のない対象(例えば一定以上の経営資源や抜本的な価格政策など)を定数と考えない。現場の決裁権のない対象を定数と考えず、動かしうる変数と考えてあるべき姿を描くことができる人物だろう。

ただし、現場の決裁権のない対象のあるべき姿を思考・発言はできるが、それらに対して影響力や実行力を発揮できない社員は「評論家・批評家」などとしばしば揶揄される。(そしてこの状況はコンサル出身者や現場に長くいる社員によく起こる)

「評論家・批評家」は現場の優秀な社員と比べて、定数の在り方の検討に自分のリソースを充てがちであり、相対的に評価指標に転換しやすい変数に充てるリソースが減少する。その状態であるべき論を語ると「余計なことを考えていないでもっと成果を出せ」と言われるわけである。

経営者視点を持ちつつ「評論家」と評されないためには、現場の決裁権のない対象のあるべきを考えるだけでなく、それらに対して影響力と実行力を発揮することが必要だ。

現場に立ちながら企業価値向上のために、本来現場では動かせない定数のあるべきを描けて、具体的な提案とともに経営層に意思決定を迫ることができる人こそが、経営者の求める「経営者視点を持つ社員」だろう。

「経営者視点を持つ社員」には、文字通り視点を持つだけでは不十分であり、影響力と実行力もあわせて身につけることが重要である。

コンマリの流行にみるレンガ職人の面影

今から少し前にアメリカで爆発的な人気を博した片付け上手な日本人女性がいた。

片付けで有名になり一部の熱烈なファンからはグル(師)と仰がれるコンマリ。彼女のプロデュースをする川原氏は彼女自身のパートナーでもある。

彼を取り上げたインタビュー(※1)からは流行をつくる因子が感じ取れて非常に示唆深い。

例えばTV番組の協業先選定にまつわるエピソード。青木氏曰く、アメリカでの番組制作パートナーの決め手は「コンマリメソッド」への深い理解を担当プロデューサー(のゲイル)から感じたことだという。

ゲイルはコンマリの片付けを資本主義の文脈に置いて以下のように評した。

コンマリの片付けは人類を次に進めるメソッドだ。
現代人の生きる資本主義社会はモノに溢れ、豊かさに溺れ、その結果多くのひとの家は散らかってしまった。もはやいたずらにモノを増やしても、人は幸せに生きられないと気付き始めている。
モノを増やすことではなく手放すことで幸せに近づくコンマリの片付けは、人類の新しい成長の仕方だ。
Inside Vision #24 より筆者要約
参照資料18分頃


このように「片付け」などの身近な行動も、独自の文脈に置き直すと新鮮さが感じられる。

有名な逸話で、レンガ積んでいる人に何してるかを尋ねたら「教会づくりさ。平和の礎を築いている」という回答に感心する話があるが、今回のエピソードはこれと同じ構造を持っている。

壮大な文脈(例えば社会問題のようなもの)に身近なモノで鋭利に切り込むと、その意外性は人の興味感心を強く刺激する。

抽象化するとシンプルで当たり前に思えるが、そういうものほど定石として役に立つ。コンマリの流行も多分に漏れず(意識的にではないにしろ)これを満たしていた。

流行を再現性持って仕掛けられる人には、このような定石が数多く頭に蓄積されているのだろう。

※1:‎起業家とクリエイターの頭の中に迫る "Inside Vision":Apple Podcast内の日本からレッドカーペットへ。世界を熱狂させた仕掛け人が見る景色。前編| 川原卓巳(KonMari Media Inc. CEO) | Inside Vision #23